青志社

高橋三千綱先生と20年付き合いのあった担当編集からのメッセージ

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「父の最期を看取った日々」
高橋三千綱先生と20年付き合いのあった担当編集からのメッセージ


父を看取った最期の日々


 2021年8月20日、高橋三千綱先生にお礼とお別れをするために、八王子のご自宅に伺わせていただきました。
十数年ぶりにお会いした娘の奈里さんは、私を含め数人の弔問客に見事な対応をしながらも、家族のことを気遣ってもいました。

その後、遺作となった『人間の懊悩』を発売することになり、小社の社長とともにあらためて、高橋家を訪問しました。
「奈里さん、文章を書いたことはありませんか? 今回のことを正直に書いてみませんか」
 奈里さんとしばらく話をしているうちに社長がいきなり提案をしました。
「まったく本を読んでいませんし、父は遺伝していないと思います」
 と言った後すぐに
「やりたいです」
 と彼女は口にしたのです。

 高橋先生とのお付き合いが20年になる私が、編集担当になりました。
「自由に、正直に、彼女の感情のままに書いてもらおう」という編集方針でしたので、予定の締め切りは過ぎていましたが、とにかく原稿を待ちました。
予定より1か月遅れて、原稿が届きました。
よくできていました。想像以上にまとまっていました。何があったのかはわかりましたが、父に対する遠慮なのか、世間の目を気にしてしまっているのか、お行儀がよすぎるのです。
彼女の感情が伝わってこないのです。
「父に対しての思いとか、後悔の念とか、絶対にあると思うんです。もっと自分の感情に正直に書いてください」
 文章は褒めつつも、新たな課題を出して、書き直してもらうことになりました。

 それからしばらくの間、彼女からの連絡はありませんでした。しかし、1か月後、書き直した原稿が届いたのです。
短い文章で、彼女の言葉は次々と私の胸に刺さりました。
初めて届いた原稿のようにきれいではありません。でも、ストレートな感情は、時にここまで書いて大丈夫かとこちらが心配になるほどで、上司にも「少し手を加えましょうか」と相談をするほどのものでした。
 結局、2回目に届いた原稿ほぼそのままの形で発売されるのが『父の最期を看取った日々』になります。

父を看取った最期の日々
「先生、娘さんに是非お会いしたいです」
 高橋先生にお願いして、居酒屋に呼び出してもらった奈里さんは、当時大学を出たばかりで二年間の遊学中ということでした。
いろいろと話をふったのですが、まったく盛り上がらず、会話になりません。喋ってくれないのです。
嫌われているな、とその時私は思いました。
 今回、奈里さんの原稿を読んで、高橋先生は思っていた以上に家では厳しい親父であったことがわかりました。娘を呼び出しはするけれど、相手は父の仕事相手なのだからでしゃばるなという教えを忠実に守っていたのです。
初回にいただいた原稿は、その流れだったのではと思います。
 でも、2回目の原稿を目にした今、思います。
彼女は、解き放たれたのかもしれない。
彼女の言動から、親父の影は消えました。
でも、彼女の文章には高橋三千綱先生が感じられるのです。

 高橋先生に、聞いたことがあります。
「娘さんに、文章を書かせないんですか」
「書けないと思う。むいてない」
 天国で、γ-GTPの数値を気にすることなくおいしいお酒を飲んでいるであろう高橋三千綱先生に、私は初めて意見をさせていただきたい。
「娘さんは、文章をかけます。それもすごいスピードで進化しています」


父を看取った最期の日々
『父の最期を看取った日々』
 発売: 2022年7月22日
 定価: 本体1500円+税
 サイズ:四六判並製
 ページ数: 248ページ
 Amazonでご購入はこちら:https://www.amazon.co.jp/dp/4865901434

【目次】

第一章 虫の知らせ
第二章 最後の入院
第三章 高橋三千綱の生き様
第四章 家族で介護の現実
第五章 楽天家は決してあきらめない
第六章 父を家で看取る
あとがき

『父の最期を看取った日々』
著/高橋奈里



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